ここでは特徴的な症例について、一部をご紹介いたします。
※手術の写真を掲載しておりますので、苦手な方はご注意ください。
小滝橋動物病院グループ全体の外科症例件数については、>こちらをご参照ください。
目次
重症筋無力症について
重症筋無力症とは神経筋接合部疾患の1つです。筋肉は末梢神経の末端から放出されるアセチルコリンという物質を受け取り収縮しますが、重症筋無力症では、免疫異常によりこのアセチルコリンを受け取る受容体(レセプター)が壊されることで生じます。
重症筋無力症には症状により3つの分類があります。
局所型や、全身の筋肉に生じる全身型、急速に病態が進行する劇症型に分類されています。また、生まれつきこの病気をもっている先天性も存在しますが、ほとんどは後天性で、胸腺腫という腫瘍に関連して発症することもあります。
目立った症状としては、疲れやすく散歩中にヘタってしまう、食事を飲み込みにくい、食事の後に食道に食べ物がたまり突出してしまうなどがあります。劇症型の場合には呼吸困難を生じることもあります。
ー診断方法ー
重症筋無力症の診断には、アセチルコリンレセプターに対する自己抗体の測定、電気生理学的検査による検出、テンシロンという薬を用いて一時的に症状の改善があるかを判定する試験(テンシロン試験)があります。
一般的には自己抗体の測定で診断をすることが多いですが、検査結果が出るまでに3〜4週間程度と長い時間がかかることや、重症筋無力症であってもごく少数のケースで陰性となるケースがあります。
テンシロン試験では投薬後に疲れやすさ等の改善があるかを評価しますが、主観的な評価となります。電気生理学的検査では、一定間隔で神経に反復刺激を与え、活動電位の変動を評価するので客観的に判断することが可能です。またテンシロン試験を電気生理学的検査上で行うことで客観的に評価することができます。
神経反復刺激検査にて重症筋無力症と診断した症例
1歳4ヶ月の雑種犬さんで、最近高いところに登れなくなったという主訴で来院しました。
後肢に力が入りにくく様子がありましたが、麻痺は認められませんでした。尻尾の付け根の痛みが認められたため、馬尾症候群が疑われMRI検査を実施しましたが画像上は明らかな異常は認められませんでした。
麻酔検査後、全身の筋肉に力が入りづらい様子が認められ、しばらく立つことができなくなってしまいました。改善後、外を散歩させたところ、首が上がらずに歩く様子が認められ、しばらくすると座りこんでしまいました。
重症筋無力症が疑われたため、自己抗体の測定を依頼しました。結果がでるまでの間に症状が悪化してきたため、即座に診断が可能な電気生理学的検査を実施しました。
電気生理学的検査(神経反復刺激検査)
脛骨神経に2秒間隔で10回刺激を加えて、対応する筋肉の活動電位の変化をみる検査を実施しました。
重症筋無力症では4-5発目の刺激で活動電位の10%以上の低下を生じることが知られています。写真は実際の検査時の記録です。
Decr.という項目が1発目と比較した減少率を示しています。この症例では4発目に11.2%の減少が認められています。
2枚目の写真ではテンシロンを投薬した後の同様の検査となります。
投薬後の減少率は改善しており、効果が確認されました。薬の効果が切れた頃に再度実施すると減少率は10%以上を示していました。
これらの検査より本症例は全身型の重症筋無力症と診断しました。
この症例の自己抗体は陰性と結果が出たため、電気生理学的検査を実施しなかった場合に判断が非常に困難になったと考えられます。
治療はメスチノンと呼ばれるアセチルコリンを分解する酵素を阻害する薬により相対的にアセチルコリンの量を増やしますものを使用します。この症例はメスチノンに反応してくれて改善が認められています。メスチノンに反応が悪い場合にはプレドニゾロンや免疫抑制剤による治療が必要となります。
類似の疾患もありますが、最近疲れやすくなってきていて、筋肉がプルプル震えているなどの症状がある際には本疾患が疑われますので、早めにご相談ください。
執筆担当:
獣医師 武藤陽信