ここでは特徴的な症例について、一部をご紹介いたします。
※手術の写真を掲載しておりますので、苦手な方はご注意ください。
小滝橋動物病院グループ全体の外科症例件数については、>こちらをご参照ください。
目次
肥大型筋ジストロフィーについて
筋ジストロフィーは遺伝性疾患でヒトでは難病に指定されています。
筋肉に存在するジストロフィンという細胞を安定させるタンパク質の欠損により筋線維が容易に障害をうけ、壊死や再生を繰り返す病気です。
ヒトではさまざまなタイプの筋ジストロフィーが知られていますが、動物での報告は非常に少なく、論文でもほとんど情報がないのが現実です。
猫では肥大型筋ジストロフィーという病態が知られており、筋肉の壊死、再生をくりかえすことで線維化し、まるで筋肉が肥大したように膨隆した見た目になるのが特徴です。
症状は呼吸が荒くなったり、食欲不振が生じたりと様々です。
ヒトでは原因遺伝子の特定がされているタイプも存在し、血液検査で確定診断を得られることもありますが、動物では原因遺伝子の特定までされていないのが実情です。そのため、動物の確定診断には
筋電図検査や筋肉を一部採取(筋生検検査)して特殊な病理検査に出す必要があります。
筋電図検査と筋生検にて肥大型筋ジストロフィーと診断した症例
9歳の猫さんで、3歳ころから首の筋肉が腫れているという症状がありましたが、様々な病院で原因不明と言われていました。
見た目での首の筋肉の肥大や、過去の血液検査からCPKという筋障害の数値が異常に高いことから筋ジストロフィーが疑われたため、
筋電図検査を実施しました。
筋電図では筋肉に障害が生じている際に認められるミオトニー放電という異常な波形が認められました。
筋肉の病理検査では筋ジストロフィーの特徴である筋線維の壊死、再生像が強く認められていました。
筋ジストロフィーの診断には免疫染色という特殊な病理検査が必要であり、この検査の結果、ジストフィンの部分的な欠損が証明されました。
首の筋肉が異常に盛り上がっている様子がわかります.
残念ながらこの病気に対する効果的な治療は現状ヒトでも存在していません。
猫の肥大型筋ジストロフィーは心臓病(肥大型心筋症)や呼吸筋にも異常をきたすことが知られており、ストレスをかけないことや呼吸が辛い時には酸素室で休ませてあげることが重要になってきます。
非常に珍しい病気ですが、確定診断をつけることで飼い主様の病気がなんであるのかという疑問や、今後どうしていったらよいのかというご不安を少しでも解消できたと思います。
現状はまだ効果的な治療や原因が不明な病気ではありますが、珍しい病気であるからこそ、しっかりと診断をすることは重要であり、またこの病気の情報を蓄積することで将来的に原因の追究や有効な治療法が確立されるかもしれません。
執筆担当:
獣医師 武藤陽信